くろくろ便り 鹿児島の正月料理1


藩主島津家の雑煮と初詣


島津家には、代々「焼きエビ雑煮」の味が伝わっています。
「焼きエビ」に好んで使われていたのは、出水沖の不知火海で採れる「クマエビ」
風力5mほどの天候をねらって、熊手のような鉄製の桁(けた)を海に投じ、海底を引きずって風力で船を進めます。
桁の後方には網が取り付けられており、海底の砂地に隠れているクマエビを掻き出すようにして捕獲します。
出水沖のクマエビやクルマエビは「出水エビ」として、薩政時代より島津家に収められていました。今でも鹿児島の正月を代表する高級食材となっています。

ところで、島津家に伝わる雑煮の味は、私たちの感覚からすると随分と質素な感じです。
焼きエビでとっただしをベースに、具は餅・里芋・青菜のみですが、約20cmのクマエビの大きさと、素材の味をいかす点に特徴があります。

お殿様にとって「焼きエビ雑煮」とならんでの正月行事が上町(かんまち)五社への参詣でした。
五社とは、諏訪(南方)・祇園(八坂)・稲荷・春日・若宮の各神社をさします。
なかでも、諏訪神社は、島津家の氏神として歴代当主の進行も厚かったことで知られます。

お殿様の食した「焼きエビ雑煮」は、島津家の別邸・仙厳園で冬季限定メニューで味わうことができます。
上町五社のお参りは隠れた鹿児島の伝統行事としてもお薦めです。


※ 著:深見聡(長崎大学環境学部准教授)
※くろぶたねっと『鹿児島へいらっしゃ~い』第27回より抜粋


クマエビ