掲載日2009/11/10 ライター:深見聡(ふかみさとし)
1975年、鹿児島市生まれ。2001年、NPO法人かごしま探検の会を設立し、2008年9月まで代表理事を務める。
2008年10月より、長崎大学環境科学部准教授。かごしま環境未来館などの市民講座の講師、長崎県美しいまちづくり審議会委員などを務める。鹿児島シティFMで毎週木曜18時過ぎからの番組内コーナー「鹿児島時空探訪」レギュラーゲスト。NPO法人かごしまライブカメラネットワーク副理事長。学術博士(観光学・人文地理学)。
私が学部学生のとき、鉄道好きな友人に誘われて、青春18きっぷで九州各地を各駅停車でまわったことがある。そのときJR肥薩線を走破しようと、二両編成の列車に乗り、途中、鹿児島県霧島市隼人町の嘉例川駅にも停車したが、そのとき印象は、人の気配がほとんどなく古い無人駅というありふれたものだった。今から10年以上も前のことだが、この駅がいまのように脚光を浴びることになるとは想像もしていなかった。
▼嘉例川駅は霧島市隼人町北部の静かな集落にある
南九州を走っていたローカル線は赤字が重なり、大きな改修や改築をおこなう余裕がなかった。ついには、廃止の憂き目にあった路線も多い。そのなかで、霧島市を縦断し熊本県八代市にいたる肥薩線は、明治期に鹿児島線の名で開通し、昭和前期まで鹿児島と県外を結ぶ唯一の鉄路としての大動脈の歴史が、廃止を食い止めたともいえる。
嘉例川駅の駅舎は、1903(明治36)年9月の隼人~吉松間の開通に先がけた1月に完成した。かつてここは炭鉱の坑木供給地として栄え、全盛期には、離合ホーム用と貨物車両の待避用のあわ三車線が使われていた。1984年から無人駅となり、使用されるホームも一本になったが、2004年の観光特急「はやとの風」の運行開始で、静寂のたたずまいが新たな人気を呼ぶようになった。駅弁「百年の物語かれい川」が販売され、さつまいもなどが入ったかき揚げてんぷらである「ガネ」など飾らない味が好評を博し、JR九州の駅弁人気度ランキングでも販売開始以来つねに10位以内に入っている。一つ一つ竹の皮で手づくりされた弁当箱もぬくもりを感じさせる。ちなみに、ガネとは鹿児島の方言で、料理のときにでる野菜の切れ端をかき揚げにしたものをいう。駅弁を売り始めた当初、「こんな粗食がうれるのだろうか」「立派な中身でないからはずかしい」といった声もあったそうだ。しかし今では、平日30個、休日には200個と予想を上回る販売数で推移している。
▼フリップブックのお問い合わせは霧島商工会議所へ
TEL: 0995-45-0313
このような動きにさきがけて、2002年、嘉例川駅の木造駅舎をコア施設と位置づけ、志學館大学生涯学習センター・自治体・地域住民が協働して嘉例川エコミュージアム研究会が誕生している。嘉例川集落にある地域資源を、複数の散策ルートを設定して掲載したマップを作成し、駅や町内外の観光案内所等に常置している。
また、駅前の広場に、「かれい川小さな博物館」と看板のかかった木造の建物がある。 地域住民たちが自宅に眠っていた民具や古写真などを展示する、まさに手づくりの博物館で、原則日曜日に開館している。事前に予約があれば、住民によるガイドもおこなっている。
同じく霧島市内の大隅横川駅も1903年築。両駅の駅舎ともほぼ同一の規格であり、当時の地方駅の規範をよくとどめている。現存する鹿児島県内最古の木造駅舎として、ともに2006年に国の登録有形文化財に指定された。
現在、霧島商工会議所が中心となって、肥薩線全通100年を記念したフリップブックを作成中で、年内完成の予定である。鹿児島空港からもっとも近い場所にある駅ながら、空港とは対照的な昔懐かしい雰囲気を味わえる、魅力あるローカル線をいつまでも大切にしていきたいものだ。
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